2018.03.30

トーク

「長野のまちとくらしを訪ねる旅」講演会レポート

「地域がひとつの大きな家族になればいいと思います」

北原さんが理事長を務めるNPO森ノオトは「自立した個人がゆるやかにつながるコミュニティをつくり、自然共生型で持続可能なまちと暮らしを実現する」ことをミッションに掲げ、主に3つの事業に取り組んでいます。
一つ目は情報発信事業。ウェブメディア「森ノオト」の運営やライター養成講座などを行います。ウェブメディアにはスポンサーをつけず、NPOの会員の寄付や他の事業の利益などから運営しているそうです。二つ目は地域交流事業。地産地消のイベントや花と緑を通じた緑化事業、子育て支援などを行っています。三つ目はものづくり事業。人、もの、お金の地域循環システムをつくる活動は、例えば不要になった布を集め、小物をつくったり、リユースサロンというマーケットイベントを開いて販売したりしています。リユースサロンは毎回オープン前に行列ができるほど人気なのだとか。

北原さんは現在、9歳と3歳の2人のお子さんを持つお母さん。
山形県山形市出身で大学進学を機に横浜に住み始めました。2009年1月に第一子を出産。その年の11月に横浜市青葉区を中心に発信する地元エコ発見メディア「森ノオト」を創刊しました。立ち上げ当初は北原さん1人で毎月20本の記事を上げていたというから驚きです。
創刊から何ヶ月か過ぎたときに、街で声を掛けられるようになり、ようやく読者がついてきていることを実感したそう。そんな、街で声を掛けてくれたお母さんたちと話すうちに「この人の生活者目線で書いた記事を読みたい!」と思い、一人ひとりをライターとしてスカウトしていきました。
今では青葉区周辺の地域に住む40人ほどのライターさんはお母さんたちが中心です。
始めたときは砂粒のように思えた活動も、人と手を取り合って広げることを通してだんだんと地域が変わっていくのを実感をしているそうです。

北原さんは大学卒業後、神奈川県内でローカルニュースを扱う会社に就職し、青葉区を中心に取材や営業をしました。その後雑誌チリチンびとの編集者を経てフリーの環境ライターに転身。地球温暖化や食、エネルギーなどの問題を取材するために日本各地を飛び回る日々を送っていたそうです。
そんな北原さんの大きな転機は子どもの出産でした。それまでの各地を飛び回っていた日々から一転し、長距離移動をすることが難しい日々を過ごします。「それならば自分が暮らしている街でスローライフのようなことをやっていこう!」という気持ちでウェブメディア「森ノオト」をたった一人で立ち上げました。

一人ひとりの存在が時代を動かす

北原さんは根っからの編集好き。その編集の熱はどこから沸いてくるのでしょうか?
小学生時代はクラスメイトのプロフィール帳を集めてデータベースをつくったり、高校生時代は先生にインタビューをして壁新聞のようなものをつくったり、大学時代、硬式野球部のマネージャーだったときは全選手のスコアや監督が選手にかけた言葉をすべて記録し編集して、ひとりひとりにプレゼントしたそう。
「ここまで来ると変態的なんですけどね」とご本人は笑っていましたが、大学の卒業論文も「ライフヒストリー」といって一人の人の人生から社会や地域を見ていくという研究をしたそう。どちらかと言うとその頃からマスよりもローカルや個人のメディアに興味を持っていたそうです。

そんな順風満帆に見える北原さんの活動にも、メンバーが女性中心ゆえの苦労もあったのだとか。
女性はそのライフステージやライフタームの変化に影響を受けやすく、だんだんとフェードアウトしていく人が出てきてしまったそう。例えば旦那さんの転勤や子どもの進学や親の介護など、家族の変化によって自分の生活も合わせる必要がでてきてしまいます。

「『子どもが小学校にあがるから忙しくなって』とか『今、家庭も大事だから』って言ってどんどん活動をフェードアウトしていくようになるんです。どうやったら活動を続けられるかなと考えたときに、やっぱり情熱とか気持ちだけでは続かないな、と思って、やっぱり仕組みとか事業にしていかないといけないなということで事業性を考えていきました。」

そこで考えたのが人が循環してもできる仕組みをきちんとつくること。同じメンバーでずっとやることを前提とせず、ライフタームが変わるときに自然に離れられる仕組みをつくりました。
特にライター部門は、相手のメリットをしっかり考えた上で、目的を達成したときに次のステップを用意するというような仕組みをつくりました。
また、北原さんを含む事務局の基盤を強化し、何かをやりたい人たちをマネジメントするような存在になることに徹したことで、より事業性のある運営ができるようになっていったそうです。

未来をはぐくむ道を選び続ける

そんな北原さんの活動の軸の一つとなっているウェブメディア「森ノオト」は年に1回、ライター養成講座を行っています。この講座が森ノオトのライターの入り口になっていて、受講した人だけがライターになれるのだとか。ただ北原さん曰くこの講座は毎回宿題も出てとても厳しい講座なのだそう。
記事を書くときに大切にしていることは、自分軸、森ノオト軸、社会軸の3つの軸で書くこと。養成講座を通して、最初は自分の興味があることや好きなことについて、自分だから書けることの「自分軸」で書いていき、エコロジーという「森ノオト軸」の切り口を探します。そして「社会軸」ではその記事が社会とどう関わっていくかということまで考えた文章を書けるようになっていくそうです。

最後に北原さんは「未来をはぐくむ道を選び続ける」という言葉を口にしていました。「どうしたら未来は良い方向に変わっていくか?」問い続けた結果が今や未来につながっていて、北原さんの蒔いた一粒の種が芽を出し、雨風にあたりながら、いつしか大きな森になっていくような力強さを感じました。

講演会ゲスト

北原まどかさん

山形県山形市出身、現在、横浜市青葉区在住。タウン新聞、環境系建築雑誌、ライフスタイル雑誌、地域情報雑誌、地球 温暖化問題専門ウェブサイトでの取材、執筆活動や、生協やオーガニックコットンブランドの広報に携わる。2009年11月、エコに特化した地域メディア「森ノオト」をつくり編集長を務める傍ら、2011年には地域から生活者視点で未来のエネルギーをつくる活動「あざみ野ぶんぶんプロジェクト」を立ち上げる。2013年にNPO法人森ノオトを設立、理事長に。2014年に非営利型株式会社たまプラーザぶんぶん電力を仲間とともに設立、取締役に。生活者の声を行政の施策に反映させるべく、横浜市や神奈川県の市民委員を歴任。著書に『うちのマンション大丈夫? 家族で助かる防災マニュアル』(共著・ゆうエージェンシー)、『暮らし目線のエネルギーシフト』(コモンズ)。2009年と2014年生まれの2女の母。

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